本記事では、叙述トリックとは何か、そしてオススメ作品はどれかを解説します。騙されたい人は参考にしてください。
一言で解説↓
叙述トリックとは、一部の情報を隠したり、一部のみを強調したりしながら、読者をミスリードさせる手法。
目次
叙述トリックとは?
叙述トリックとは一言で言えばミスリードです。
情報の一部を隠し、別のものを連想させるように仕向ける手法。
ミステリーは地の文(説明文)で嘘をついてはいけないという暗黙の了解があり、そのギリギリを攻めた手法と言えます。
つまり積極的に騙しにきている作品なので、騙される率が高いです(笑)。
どんでん返しで騙されたい気分だったんだよなぁ・・という人にオススメのジャンル。
叙述トリックが秀逸なおすすめ小説まとめ
では本題に入ります。
おすすめ作品は以下の通り。
- 掟上今日子の家計簿 作者:西尾維新
- 横尾秀介さんの「向日葵の咲かない夏」
- ハサミ男・殊能将之
- 蒼空時雨
- Another
それぞれ見ていきましょう。
西尾維新「掟上今日子の家計簿」
まずは西尾維新さんの「掟上今日子の家計簿」です。
忘却探偵シリーズの1作品ですね。
あらすじは以下の通り。
“掟上今日子は寝てしまえばその日の記憶を失う忘却探偵です。昨日の記憶のない彼女ですが、驚異的な推理力で1日のうちに事件を解決に導いていきます。
そんな忘却探偵シリーズの短編4編が掲載されたミステリー小説です。”
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“主役の掟上今日子が寝ればその日の記憶を失うという設定上、読者と主人公の情報量が同じ状態で推理が進みます。
同じ材料から事件の真相に到達できるか、読者も頭をひねりますし、主人公の推理力のすごさを味わうことのできる作品です。”
ネタバレありになってしまうのですが、叙述トリックがすごい点は以下の通り。
“短編の3本目「掟上今日子の心理実験」がこれぞ叙述トリックというべき内容です。
とあるお屋敷の地下室で家族の1人が串刺しの状態で発見されます。容疑者は、地下室のカードキーを開閉できた被害者の家族。被害者は、手がつけられないほど乱暴で、気に入らないことがあるとわめき散らし、コミュニケーションも成立しない上に、身の回りの世話をすべて求めてくる人物だったようです。
実はこの被害者は赤ん坊で、家族が赤ん坊を殺害するという倫理観の心理的ハードルが推理を妨げていたという内容。今日子さんは人間味なく真相を明らかにするのでした。”
横尾秀介「向日葵の咲かない夏」
続いては横尾秀介「向日葵の咲かない夏」です。
こちらはかなり怖いホラーです。
あらすじは以下の通り。
夏休み前の終業式の日に、先生に頼まれて欠席していたクラスメイトの家を訪問したら、そのクラスメイトが首を吊って亡くなっているというショッキングな光景を目にするが、次の瞬間には忽然と姿を消してしまったいた。そして一週間がたったある日、そのクラスメイトがとあるものに姿を変えて、主人公の元に「自分は殺されたんだ」と訴えに来たので、事件の真相を暴いて、クラスメイトの無念を晴らすために事件を追いかけ始める。
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首を吊って亡くなっていたクラスメイトが、蜘蛛の姿になって主人公の前に現れて、色々と事件の際の状況や犯人はこいつだって語るというのが新鮮だなって思ったのと、もちろん叙述トリックの作品なので、最後まで読んだ時に思わずゾッとする結末になっていて、本当に色んな意味で忘れられない作品になりました。
ネタバレありになってしまうのですが、叙述トリックがすごい点は以下の通り。
この物語は主人公の回想ということで、主人公の一人称視点で語られていくために、クラスメイトが蜘蛛になって現れたことを読み手は信じてしまったり、妹のミカの存在もあたかも普通に人間として一緒に暮らしていると思い込まされてしまっていますが、その全てが実は妄想であったり、嘘であったということが最後の結末で分かるのがすごいです。本当に結末が分かってから読み返すと、ほとんどの登場人物が主人公による妄想なんですよね。
殊能将之「ハサミ男」
続いては「ハサミ男」です。
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こちらもサイコホラー系!
あらすじは以下の通り。
“主人公・ハサミ男のの視点で物語は進行します。
美少女を殺害し、研ぎあげたハサミを首に突き立てる猟奇殺人犯「ハサミ男」。3番目の犠牲者を決め、綿密に調べ上げるが、自分の手口を真似て殺された彼女の死体を発見する羽目に。一体だれが、何の目的で? ハサミ男は犯人捜しの調査を始めます。”
面白い点はこちら!
“軽快で端的な語りで、物語は進みます。「ハサミ男」は自殺マニアで、バイトが終わって週末にはいろんな方法で自殺を繰り返します。すると必ず「医師」が現れてカウンセリングをします。
また、健啖家で被害者の調査で外出し、食事を楽しむのですが、その描写がおいしそうで魅力的です。
平成15年の設定で、書かれたのはその前なので、近未来を予測して軽いSFタッチなのも、当時新鮮でした。
そして、あの有名な鮮やかな叙述トリック。
叙述トリックでは、一番の傑作だと思っています。”
ネタバレありになってしまうのですが、叙述トリックがすごい点は以下の通り。
“「ハサミ男」という名前と、中性的なセリフとミスリーディングより、すっかり太っちょの男性だと思い込んだ。まさか、ふっくらしたかわいい女性だとは。
医師がハサミ男の脳内での人格ということは、初めのほうでわかっていたが、さらにこんな仕掛けがあるとは。”
綾崎 隼「蒼空時雨」
続いては「蒼空時雨」です。
こちらはやや恋愛寄り。
あらすじは以下の通り。
ある男の家の前で倒れてしまったことをきっかけに主人公の女性はその男性の家に居候させてもらうことになる。しかし、2人にはある秘密があった。
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しとしととした心情描写がほかの作家には真似できないほど真に迫るものだった。彼らの熱情に浮かされてしまいそうになる。
ネタバレありになってしまうのですが、叙述トリックがすごい点は以下の通り。
女性は人生に絶望し初恋相手に会いに行き彼の家に居候していたが、彼は初恋相手の名前を騙る別人だったということが男性目線から明かされる。
綾辻行人「Another」
続いては「Another」です。
あらすじは以下の通り。
“家庭の事情と自身の病気療養の為と母の実家に頼ることになった榊原恒一。
彼は中学三年生で地元の中学校に転校する。
彼が所属する3年3組では異様な雰囲気が漂っていた。
5月になり、クラスメイトの女子生徒が不慮の事故で死亡すると榊原恒一は3年3組の直面する大きな問題に直面することになる。
3年3組の生徒はこの問題を解決し、無事卒業することができるのか。”
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“最初はホラー系のミステリーだと思っていた。
確かにホラー要素のある設定だがそれ以上にクラスメイト同士の信頼や、不安など思春期特有の人間関係がしっかり描かれていて、それが余計に問題を悪化させるような感じもあり、どんどん引き込まれてしまった。
ヒロインは真面目な中二病全開でこの小説に相応しい。
舞台の年代もジャパニーズホラー全盛期の年代で、あの時代に合ったひんやりとして空気感が感じられて楽しめた。”
ネタバレありになってしまうのですが、叙述トリックがすごい点は以下の通り。
“3年3組には毎月クラスメイトとその血縁者が死亡する呪いのようなものがかかっている。
呪いの解除にはクラスメイトに紛れている死者(過去に呪いで死亡したクラスメイトorその兄弟)を死に帰さなければならない。
夏合宿に参加した主人公たちは管理人が発狂し、生徒を惨殺、宿泊施設に火を放ち絶対絶命のピンチになる。
管理人から逃げ、避難するとヒロインがいない。
ヒロインは死者を見つけたと連絡し、携帯電話の電波が切れる。
ヒロインを見つけるとそこにいたのはがれきに脚を挟まれたクラスの副担任の女性教師だった。
実は女性教師は主人公の叔母でプライベートと学校をきっちりわけてお互いそれぞれの場に沿った関係を貫いていた。
その為このシーンを読むまで、副担任と叔母同一人物との記載が一切ないため、まったく関係のない存在だと認識していた読者を驚かせることになる。
そして最後に主人公は叔母を殺すことで呪いの解除に成功する。”
松本清張「点と線」
続いては松本清張「点と線」です。
あらすじは以下の通り。
九州の香椎海岸で発見された、心中自殺と見られた事件は、実は巧みに耕作された他殺だった。
その背景には、官僚汚職が深く関わっていた。不正を憎む熱血刑事が、事件の核心に迫ろうとした時、首謀者が自殺し、事件は闇に葬られた。
さらに、失脚したに取って代わろうとする官僚がうごめく。
面白い点はこちら!
時刻表の分単位の緻密さと、それを巧みに計画的に利用したトリックに驚きました。
この作品では、組織の一人の人間が死んでも、最終的には日本の官僚政治は何も変わらないと思いました。
ネタバレありになってしまうのですが、叙述トリックがすごい点は以下の通り。
わざと、人目に付くように東京駅に複数の仲居に見送らせて、見通せる他の番線に、後で香椎海岸で心中自殺と見られた犠牲者があたかも恋仲であるかのように見せることが目的で、決して偶然ではなかった。
犯人は、二人いた。汚職が噂される省庁と太いパイプを持つ商人とその病床で療養いている妻だった。
商人は、北海道に出張のアリバイがあり、福岡に行くことなど不可能のようだが、実は、当時の青函連絡船の切符のシステムが適当だったことをうまく利用して福岡に飛んでいた。また。妻は療養先を身代わりとすり替わり、九州まで列車で行った
合流した二人は、別々に被害者に青酸カリを飲ませ、死体をあたかも心中に見せかけるため、香椎海岸まで運んだ。
綾辻行人「十角館殺人事件」
続いては綾辻行人「十角館殺人事件」です。
あらすじは以下の通り。
孤島にある十角館というお屋敷に泊まりに来た大学のミス研メンバー7人。
みんなそれぞれをミステリー作家からとった愛称で呼び合っている。
この屋敷の設計者が半年前に謎の死を遂げているというミス研にはぴったりの場所。
ただの合宿の予定だったが、メンバーはひとりひとり殺されてしまう。
面白い点はこちら!
ある一文で、これまでの思い込みが全て壊れるのが快感でした。
これを越える叙述トリックにはまだ出会えていません。
ネタバレありになってしまうのですが、叙述トリックがすごい点は以下の通り。
メンバーはミステリー作家からとった愛称で呼ばれているため、本名がわからない。
また、館の話と同時進行で、本州での話も進んでいるのだが、そちらに出てくる登場人物と館にいるはずのメンバーのうちひとりが同一人物であるというのが終盤に明かされます。
「島と本州が往復できること」「本州で出てくる登場人物が島にいるメンバーのひとりであること」がわかり、話の内容が一気に解明されます。
岡嶋二人「クラインの壷」
続いては岡嶋二人「クラインの壷」です。
あらすじは以下の通り。
バーチャルリアリティーシステムの募集に応募した青年とアルバイトの少女がゲーマーになって仮想現実の世界を体験するストーリーです。しかし、ゲームを進めていくと現実とバーチャルの世界がわからなくなる物語です。
面白い点はこちら!
最終的には、読んだ自分も、最後の所が現実のシーンなのかバーチャルのシーンで終わったのかわからなくなった記憶があります。
ネタバレありになってしまうのですが、叙述トリックがすごい点は以下の通り。
結局、最後はどんな終わりなのかわからないラストになります。仮想現実のシステムに入ったり出たりしているうちに主人公もどちらの世界が本当なのかが全く分からなくなってしまうからです。なので読んでいる読者もどこのシーンから現実とバーチャルが入れ替わったのかがわからなくなります。
我孫子武丸「殺戮にいたる病」
続いては我孫子武丸「殺戮にいたる病」です。
あらすじは以下の通り。
京で次々と女性を6人手にかけた蒲生稔。
自分の息子が殺人犯なのではと疑い、怯える雅子。
被害者の1人の関係者で、事件を追う元刑事の樋口。
面白い点はこちら!
連続殺人の犯人が逮捕されるところから始まるのが衝撃的でした。
犯人が逮捕された後、雅子が「自分の息子が殺人犯なのではないか?」と疑いだした時に遡り、そこから犯人・犯人の母親・追跡者の3人の視点が交互に展開されることで物語が紐解かれていきます。
犯人の稔の視点も描かれるため、どのように被害者と知り合ったのか・どのように殺したのか・殺した後どうしたのか(なぜそのような行為に至ったのか)まではっきりと読者に知らされます。(けっこうグロテスクな描写があります)
内容にも驚かされましたが、当時ほとんど小説を読んだことがなかったので読破できるか心配だったところ、3人の視点が交互に変わるので「今日はここまで読もう」と見込みをつけやすく、しっかり読破できたことも思い出です。
ネタバレありになってしまうのですが、叙述トリックがすごい点は以下の通り。
メインの登場人物である、犯人(稔)・犯人の母親(雅子)・追跡者(樋口)と思って読み進めていくことになるのですが、実際は稔は雅子の息子ではなく夫で、彼女の息子は「信一」という別の人物です。
雅子は(簡単に言ってしまえば)子離れできず夫のことは眼中にない母親で、稔もまた、母離れできず妻や家庭のことには関心のない夫です。
犯人一家の蒲生家は「祖母(稔の母親)」「夫(稔)」「妻(雅子)「息子(信一)」「娘(愛)」という家族構成なのですが、両者それぞれの視点に夫・妻(と子ども)が不在なため、雅子視点での息子は信一であるけれど読者には稔のことだと、稔視点での母さんは自分の母親(祖母)であるけれど、読者にはそれが雅子だと誤認させられます。
ラストで雅子が稔の所業を目の当たりにし叫んだ言葉で、やっと読者は誤認させられていたことに気付くようになっています。
まとめ
以上が叙述トリックの概要とおすすめでした。
ミステリーの中では邪道(王道ではないの意)ですが、こういうの好きだったんだよなぁという人も多いのでぜひ読んでみてください。
ではまた。良い読書ライフを!
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